やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

自民党党内処分と議員組み換え狂想曲


 政倫審以降、やっぱり世間の逆風は止まらなかったのでどうしようもなくなって裏金議員の党内処分を4月4日めどに断行する運びとなり、目下猛烈な駆け引きが行われておるところであります。

 立場の高い低い(国会議員なのに低い立場ってのを私が言うのも変ですが)、裏金の金額が多い少ないはあれども、下は2万円から上は4,000万円以上の裏金をごっつぁんしてきた議員の処分については、厳正であると同時に公平であることも求められます。

 そもそもコロナ下で政府が感染症対策のため外出の制限を要請している状況であるにもかかわらず、銀座で飲み歩いていた松本純さんら銀座3兄弟と呼ばれた3議員について離党勧告という重い党処分を下されていました。これと比べて、2,000万円以上の裏金をもってった議員に対してそれよりも軽い公認停止みたいな緩い感じのネタでいいのかってのはかねて議論になっておりました。

 また、岸田文雄さんがヘッドであった宏池会においても、派閥として3,000万円強のパー券収入無記載が表面化していて、本来であれば岸田さんも処分を受ける側と言えなくもありません。岸田さんは自らの責任を定めて党内処分を決め、その処分を受ける考えはミリも無いと思いますが…。

 ただ、一足早く党内処分を受けるタイミングで二階派志帥会を率いた二階俊博さんが、先手を打って次期衆院選への出馬をせず政界引退する発表をしてしまいました。もちろん、党内処分が固まる前に自らを処するという点においては潔いっちゃ潔いわけですが、その二階さんが選挙に出ない、公認停止以上の処分を受けることを是として捨て身されてしまうと、二階さんよりも上の処分が求められる世耕弘成さんはそう遠くない将来行われるであろう衆議院への鞍替えがむつかしくなります。参議院議員である世耕弘成さんが安倍政権において重要な位置を占めた実力者であるにもかかわらず総理の椅子に届かないのは衆議院議員じゃないからなのだという意味では衆院への鞍替えは悲願ですが、その大事な節目に二階さんから進路を塞がれてしまったことになります。

 なにせ82人もの議員の処分を考えるわけですから、岸田文雄さんもさすがに幹事長の茂木敏充さんや、二階さんと同じく次期衆院選への出馬はしない意向の副総裁・麻生太郎さんの意見も踏まえて決定を下すことになるんだと思います。ただ、特に都市部の清和研は、自民党全体に対する逆風の中でももっとも強い状況ですから、いかなる処分が出てもどうにもならんというのが正直なところだと思うんですよ。

 注意のような軽い処分であったとしても、それはあくまで党からの処分なのであって、国民からすれば知ったことではありませんから、これで禊になったとは言えない状況です。

 逆に離党勧告のような重い処分になったとして、それで禊になるかというとそうでもなく、議員に留まる限り次回選挙で間違いなく陥落します。

 であるならば、状況認識として党の処分や検察審査会での取り扱いはともかくとして、けじめとして自分から責任を取る形で離党したり、議員辞職をしたりすることで浮かぶ瀬もあれとやるべきところだったんじゃないのか、と思います。自分から議員辞職をしていれば、充分に社会的制裁は受けたとして略式起訴されて有罪判決を受け公民権停止になって本当に政治生命が終わりかねない状況になる、のは避けたいと普通は考えると思います。

 ただ、今回の自民党の処分、もちろん必要なことですから総裁としての岸田文雄さんには大ナタを振るっていただくことを期待したい面はありますが、問題はふたつあって、ひとつは日程的に小泉純一郎さんが仕掛けたような郵政選挙的な権力闘争にまでは至らない点。他方は処分を行っても選挙で勝てない議員をどこまで自民党に温存するのかが見定まらない点です。公認を停止し対抗を立てるのであれば放り出しになりますが、いまそこまで話が詰まっているわけじゃないと思うんですよ。まず処分、ということですから。

 でも、少なくとも秋の総裁選を考えれば5月いっぱいまでには誰を蹴り出して誰を温存するかは方針だけでも固めておかないと自公政権という器そのものが持たない可能性もあるわけで、公明党の山口那津男さんが説明責任と厳正処分に触れていたのも、本当の意味で国民が納得しないからだという風にも思います。

 まあ、砂被りで見ている私ですら納得できませんからね… 6月解散説については、続くインシデントでも解説していきます。
 

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Vol.435 岸田文雄さんはこれからどこへ向かうのかをつらつらと考えつつ、昨今のフェイクニュースのありようなどについて触れる回
2024年3月31日発行号 目次
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【0. 序文】自民党党内処分と議員組み換え狂想曲
【1. インシデント1】岸田文雄政権、3月28日、6月解散説、小池百合子国政進出などを占う
【2. インシデント2】フェイクニュース拡散を止めることがむつかしい時代
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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